過去の講演要旨

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2011年度

世話人:高木俊(東大・生物多様性)

11-第2回 赤坂宗光・山北剛久(東京大学・生物多様性)

日時:7月29日(金)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室→ (地図

赤坂 宗光

演題:「水域の連結性と水生植物のα・β・γ種多様性:重ね池の現地調査からみえてきたこと」

山北 剛久

演題:「アマモ場の分布変動パターンを異なる時空間スケールの解析から解明する」
概要:
 生物の分布変動パターンと要因を解明するには、様々なアプローチがある。
これまで行った海中の種子植物アマモの研究を例として、
1)1つの植生全体の広域安定性を維持するパターン、
2) 植生同士の正の相互作用プロセスによる植生変化パターン、
3) 生物の分布と物理かく乱との関係性、
4) GISによる景観指標のスケーリング
について紹介し、異なる時空間スケールの視点を比較する。 スケーリングパターンの存在や景観パターン形成をどのスケールで どのようにモニタリングすべきか議論したい。

11-第1回 内井 喜美子(東京大学・広域システム)

日時:5月20日(金)18時〜(予定)
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室→ (地図
演題:「野生生物新興感染症の感染ダイナミクスと宿主個体群への影響」
概要:
感染症は,生息地破壊,生物学的侵入,温暖化と並び,野生生物個体群の衰退や絶滅をもたらす要因となる.近年は,野生生物における新興感染症(宿主集団の中に新しく出現したものや,元から存在したが発生率や地理的分布が急激に拡大したもの)の発生が世界的に増大しており,生物多様性への脅威となっている.生態系における野生生物感染症の動態や,感染症が野生宿主個体群にもたらす影響を理解することは,いまや保全生態学的観点から非常に重要な課題である.しかし,これまで野生生物感染症は,人や家畜に対する感染源としての認識に重きが置かれてきたため,その生態学的な知見はいまだ乏しい.今回のゼミでは,1996年にイギリスの養殖場のコイで初めて確認され,2003年以降,日本の野生コイ個体群に蔓延したコイヘルペスウイルス感染症を題材とし,本感染症が野生宿主個体間を伝播するメカニズムを検証した研究を紹介する.さらに,コイヘルペスウイルス感染症の蔓延が,宿主個体群の遺伝的特性に及ぼしうる影響について考察する.
ポスターはこちら


2010年度

世話人:高木俊(東大・生物多様性)

10-第4回 内海 俊介(東京大学・広域システム)

日時:2月22日(火)18時〜
場所:東京大学農学部 1号館2階第10講義室(いつもと異なります)→ポスター参照
演題:植物形質の時空間変異VS植食者:植食者の個体群・群集・進化へのインパクト
概要:
同種植物であってもその形質には個体内、個体間、個体群間というさまざまな階層レベルでの変異が存在し、さらにそれには時間的な変化も伴う。従来のボトム・アップの見方においては、植物形質の違いは植食者の生存や繁殖、密度を左右する主要な要因として考えられてきた。言い換えればそれは、ある植物形質レベルによって植食者のそれらのパラメータが予測できるという考え方である。しかし野外において、植食者は個体であれ個体群であれ、常に「時空間的に変異がある植物形質の集合」と相互作用をする。そのとき、植食者のふるまいには創発性とも言えるようなパタンが生じうる。たとえば、異なる形質レベルの植物個体が環境中にあるとき、植食者個体群のサイズは各植物個体の形質レベルの効果の総和とは異なる場合があるという理論的予測がある。このような問題は、近年の生態学において盛んである「異なる階層を結び付ける試み」において重要な問題であると考えられるが、実証研究はそれほど進んでいるとは言えない。私たちはこれまで、植物の遺伝的変異や可塑性(食害応答)によって生じる形質の時空間変異が、植食者の個体群動態や群集構造、そして適応進化までどのように波及するのかについて、メカニスティックな側面からのアプローチによって取り組んできた。本講演ではそれらの研究の成果を紹介したい。

10-第3回 谷内 茂雄(京都大学生態学研究センター)

日時:10月30日(土)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:琵琶湖の農業濁水問題と地域社会の持続可能性の関係
概要:
琵琶湖は世界有数の古代湖であり、生物多様性の豊富さでも知られています。一方で、琵琶湖流域は古くから人間活動によって日本で最も大きな改変を受けてきた流域でもあります。現在、琵琶湖では、琵琶湖周に広がる水田稲作地帯から、しろかき作業時の泥を含んだ農業排水が流入する「農業濁水」が問題となっています。しかし、琵琶湖から農村に目を転じると、そこでは農家の高齢化・後継者不足、農業や農村の将来への不安が地域社会の差し迫った問題となっています。つまり、琵琶湖の環境を保全する上では、注意深い水管理によって農業濁水を削減する必要があるのですが、地域の農村では営農上の深刻な課題を抱え、それが濁水を削減する上で大きな制約となっているという現実があります。
総合地球環境学研究所のプロジェクト(「琵琶湖−淀川水系における流域管理モデルの構築(2002年度−2006年度)」)では、(1)安定同位体手法など理工学的な環境診断手法と社会科学的な調査によって、農業濁水問題の影響、至近的および地域的・歴史的な駆動要因の連鎖を明らかにし、(2)農村におけるワークショップ手法の開発を通じて環境配慮行動の解明に取り組みました。特に、どのような情報が水管理に対する農家の意識を高めるかを調査した結果、琵琶湖への影響に関する科学的な情報とともに、住民が関心を寄せる地域固有の情報の大切さがわかりました。濁水の影響への科学的理解を促すだけでなく、地域社会が抱える農業経営や農村の将来といった地域の問題と接点をつくる対話が必要なのです。

10-第2回 横溝 裕行(国立環境研究所)

日時:10月5日(火)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:外来種の最適管理戦略の数理的研究
概要:
[1]外来種の密度と経済的インパクトの関係を知ることの重要性
外来生物の密度を減らす事を目的とした管理モデルのほとんどは、外来生物の密 度と農業や生物多様性に与える負の経済的影響の関係が明示的に取り込まれてい ない.外来生物の密度を減少させるがコストを伴う管理努力量の最適値を導出 し、外来生物の密度と経済的影響の関係が最適な管理努力量にどう影響するのか を解析した.また、この関数形を誤って用いることによってもたらされるコスト を計算することによって、外来生物の密度と経済的影響の関係を研究することの 重要性を定量化し明らかにした.

[2]商用外来植物の導入に関する費用便益分析
園芸植物などの商業的に有用な植物が海外から意図的に持ち込まれている. しか し、その商用植物が野生化して、外来植物として生物多様性などに様々な負の影 響を与えるリスクがある. 商用植物が拡散しないために封じ込めを行う事が管理 手段の一つとして考えられている.野生化した場合に与える負の影響の大きさ や、封じ込めの効果などに関する情報に不確実性がある中でも、導入に関して政 策決定を行わなくてはいけない.これらの不確実性を考慮に入れ、商用植物を導 入する事により得られる純利益の大きさに基づいて、導入や封じ込めの実施を決 定するモデルを構築し、商用植物の導入の条件を明確化した.

10-第1回 大澤 剛士(農業環境技術研究所)

日時:5月20日(木)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「河川生態系の要石:合流点が生み出す生態学的プロセス」
概要:
河川生態系では、一般的に重力に沿った水の流れによって、上流から下流へと連続的に物理環境が変化する。しかし、厳密にみると河川環境は、複数河川の合流点において急激に変化している。例えば流量の急増、それに伴う堆積、浸食作用の急変などが挙げられ、結果として合流点の周辺では洪水が起こりやすい。一方で、モンスーンアジアの河川は梅雨と雪解けによって定期的に増水し、当該時期に洪水が起こりやすい。合流という空間的な要因と、季節的な増水という時間的な要因の相乗効果による洪水は、河川生態系における生物多様性に大きな影響を及ぼしていると予想される。本研究では、河川に生育する草本を対象として、合流と季節性が植物の多様性と群集形成に及ぼす影響について検討した。検証のため、兵庫県武庫川水系の11箇所の合流点において、合流の前後の自然河原で春、夏の2回ベルトトランセクトによる植生調査を行い、多様性と群集組成を検討した。種多様性を比較した結果、夏の合流後では、合流前に比べて種多様性が増加すること、多様性に貢献するのは1年性草本、在来種であることが示された。季節ごとの群集組成を類似度を用いて比較したところ、合流点の周辺では春と夏で群集の集合ルールが変化していることが示唆された。合流という地形は、少なくともモンスーンアジアにおける河川生態系において、極めて重要な役割を担っていると考えられた。

2009年度

世話人:高木俊(東大・生物多様性)

09-第7回 深見 理(スタンフォード大学)

日時:2月26日(金)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「群集の多重過渡状態」
概要:
深見理・中嶋美冬(スタンフォード大学) http://www.stanford.edu/~fukamit/
 群集構造を理解するために作られた概念のひとつに「多重安定状態」といわれるものがある。これは、環境条件が同じでも、どの種がいつ移入するかによって最終的に出来上がる群集の構造が違うという説だ。この概念は1970年代から考えられてきたが、特に近年は自然復元の実践に役立つものとして注目されている。しかし、実際の群集の多くは、しばしば撹乱に影響にされており、安定状態に達することはめったにないかも知れない。数学的な理論研究では群集が安定状態にあることを前提にしたほうが都合がよいのだが、この前提に基づいて導かれた理論的な予測は実際の群集を理解するのに本当に役に立つのだろうか。今回のゼミでは、植物群集を想定した単純なコンピュータシミュレーションの結果をもとに、「多重安定状態」の概念に頼っていると、実際の群集構造を理解できない可能性を提示する。これからは、「多重安定状態」よりも「多重過渡状態」について調べていく必要があるのではないか。この点について議論したい。

09-第6回 津田 敦(東京大学海洋研究所 浮遊生物分野)

日時:1月21日(木)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「海洋鉄散布実験の成果と現状」
概要:
世界の海洋には、夏期においても鉄が不足し、植物プランクトンによる基礎生産が制限され、硝酸などの栄養塩が余っている海域が3海域ある。微量元素である鉄濃度を調節し、余っている栄養塩を使って、基礎生産を促し、大気中の二酸化炭素を海洋に吸収させる試みがベンチャー設立などを伴って動き出している。しかし、鉄濃度調節が二酸化炭素濃度抑制に本当に効果があるのか、また、現在ある海洋生態系や物質循環にどのような影響があるのかは、中立的な立場を保った研究組織によって速やかに解明されねばならない。
平成13年度から環境省地球環境総合研究推進費による委託を受け、水産総合研究センター、国立環境研究所などでは、海水中微量元素である鉄濃度調節による二酸化炭素吸収機能の強化と海洋生態系への影響の解明を目的としたプロジェクト研究(平成13-15年度)を開始した。
平成13年度は、カムチャッカ南東の西部太平洋で、世界で5番目北太平洋で初の鉄濃度著応接実験を日本チームで行い。濃度調節から2週間にわたって観測した。その結果、北太平洋西部は、他の海域に比べ鉄に対して早くて強い反応を示し、植物プランクトンは20倍に増え、海洋表層の二酸化炭素分圧は大きく低下した。
現在、世界的では10以上の鉄散布実験が行われ、ある程度の共通性と相違が明らかになった。珪藻を中心とした藻類が増殖するが、二酸化炭素吸収効率は想定していたより低く、結果の予測も現時点では困難である。また、鉄散布実験は海洋では困難であった生態系操作実験であるが、ロンドン条約などの関係で、実験の規制や制約が国際的に厳しくなりつつある。成果とともにこのような現状をお話しする予定です。

09-第5回 増田 直紀(東京大学大学院・情報理工学系研究科)

日時:12月3日(木)18時〜
場所:東京大学農学部 7号館B棟2階234・235号室 (地図
演題:「ネットワーク上の共存ダイナミクスと固定ダイナミクス」
概要:
近年の複雑ネットワーク研究とも関連しながら、生態学において、群集、個体 群のそれぞれの意味において、ネットワークの構造やその機能についての研究 が増えている。本発表では、生態学 (特に、個体群) に関係する、ネットワー ク上の2つのダイナミクスについて紹介する。1つ目は、3すくみダイナミクス である。各頂点は3 状態のいずれかをとり、3状態はジャンケンで表される強 弱関係にある。3状態が共存する解の安定性が応用上重要であるが、この安定 性がネットワークの構造にどのように影響されるかについて説明する。2つ目 は、同等な強さの2種系がお互いに侵入するダイナミクスである。突然変異を 仮定しなければ、有限なネットワークでは、いずれは片方の種のみの状態にな る。このような固定が起こる確率は、集団遺伝学などで従来から調べられてい る。一般のネットワークやグループ構造を持つネットワークにおける固定確率 について述べる。

参考文献:
増田 直紀, 中丸 麻由子. 日本生態学会誌, 56, 219-229 (2006).
N. Masuda, N. Konno. Physical Review E, 74, 066102 (2006).
N. Masuda. Journal of Theoretical Biology, 251, 181-189 (2008).
N. Masuda, H. Ohtsuki. New Journal of Physics, 11, 033012 (2009).
N. Masuda. Journal of Theoretical Biology, 258, 323-334 (2009).
N. Masuda, Y. Kawamura, H. Kori. Physical Review E, 80, 046114 (2009).
N. Masuda, Y. Kawamura, H. Kori. New Journal of Physics, 11, 113002 (2009).

第4回 辻 和希(琉球大学・農学部・亜熱帯農林環境科学科)

日時:11月2日(月)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「侵略的外来アリの生態学と撹乱」
概要:
生物学的侵入は多種共存に関する群集生態学理論をテストするための基礎研究上の機会を提供するといわれているが,アルゼンチンアリなどの侵略的外来アリは材料の特殊性ゆえそれらで経験的に検討できる問題は群集生態学を超えさらに多岐にわたる.たとえば,これらのアリは融合コロニーという巨大なコロニーを作り,他種アリを排除する傾向が強い.ここから,資源要求の似た在来アリ種間にそもそもなぜ共存が成立し外来種の介在でそれが阻まれるのかという群集生態学的問題,融合コロニー性の下では個体群=コロニーとなるため巣内血縁度がゼロとなるにもかかわらず真社会性が維持されているのはなぜかという社会生物学的問題,一般に遺伝的多様性の乏しい外来種個体群に大発生がおこるのはなぜかという集団生物学的問題,などいずれも各分野の基本命題が提示できる.従来これらは安定な環境を仮定した理論体系で説明がなされてきた.すなわち,社会生物学者は子供の数と血縁度だけで性質の適応価を測り,群集生態学者は競争&ニッチ理論で説明してきた.例えば集団遺伝学,群集生態学,社会生物学を総合した現在支配的な学説にボトルネック説がある.外来生物個体群はしばしば侵入時に遺伝的ボトルネックを経験する.アリは遺伝的な情報によりコロニーの所属を識別するが,ボトルネックを経験した外来アリ個体群では識別を可能にする遺伝変異が欠乏し,本来なら敵対するはずの同種の異コロニーが融合してしまう.すなわち融合コロニー性は非適応的現象であると本説は主張する.さらに他種の排除は種内競争の欠如により種間競争が卓越する状況が生み出されるので群集理論で説明可能とされる.しかし,見落とされがちなのは侵略的外来アリ種の撹乱環境依存性である.私は環境に時間的変動があるときは,齢構造下での生活史戦略と非平衡群集という観点の導入が必要との考えから,沖縄のアリ群集を材料に研究を展開していおり,今回はその成果の一部を紹介する.

第3回 寺島 一郎(東京大学・理学系研究科)

日時:7月21日(火)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「葉が緑色なのは緑色の光をうまく光合成に使うためである:葉の色のパラドックス」
概要:
「葉が緑色に見えるのは、葉が緑色光を吸収しないからである。」あるいは、 「緑色光は吸収されないのだから光合成には使われない。」などとよく言われま す。これらは、実は間違いです。
 葉は屈折率が1.5程度の細胞と1.0の空気から成り立っているので、葉の内部に いったん入った光は葉の内部で何度も屈折します。一度葉緑体に遭遇しただけで はあまり吸収されない緑色光も、何度も葉緑体に遭遇することで、かなり吸収さ れるようになります。
 葉の光合成組織は、表側の柵状組織と裏側の海綿状組織に分化しています。海 綿状組織の細胞が不定形なのは、吸収されずに裏側に達した緑色光を強く散乱し 光路を延長するのに役立っています。また、葉緑体はその光環境に馴化し、葉の 表側の明るい部分には強光を利用できる陽葉緑体が、裏側の暗い場所には陰葉緑 体が分化します。このように、柵状組織と海綿状組織の分化によって光吸収の勾 配を緩和すること、それでも存在する光吸収の勾配に対して陽葉緑体〜陰葉緑体 の勾配をつくることは、葉全体の光資源や窒素資源の利用効率を上昇させています。
 しかし、葉緑体の馴化のダイナミックレンジはそれほど大きくなく、多くの葉 では、葉内の光吸収の勾配の方が、葉緑体光合成最大速度の勾配よりも大きいよ うです。したがって、表側の葉緑体の光合成が光飽和している時にも、裏側に近 い葉緑体は光飽和に達していないという状況が起こります。この時、葉全体の光 合成速度をさらに高めるために、白色光を強めると、それに含まれる赤色光や青 色光は表側の光飽和に達した葉緑体に吸収され、そのエネルギーのほとんどは熱 として散逸されることになります。一方、緑色光は裏側に届き、光飽和に達して いない葉緑体の光合成を駆動します。これを新案の微分的量子収率測定法で実証 しました。強光下で、効率よく光合成を駆動するのは、赤色光や青色光ではなく 緑色光なのです。陸上植物が、クロロフィルという緑色光を吸収しにくい色素を 使っているのも、この事情によるのかもしれません。

第2回 鈴木 牧(東京大学・科学の森教育研究センター)

日時:5月13日(水)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「シカの影響を受けた暖温帯旧薪炭林の生態系機能を回復させる」
概要:
シカ類の高密度化が生態系に及ぼす影響については多くの事が知られているが, 影響を受けた生態系の機能がどうすれば回復するかは殆ど分かっていない.暖温 帯の旧薪炭林では,防鹿柵 (exclosure) の設置だけでは衰退した植生が容易に 回復しないことが知られている.その理由として,暗い林床で生育できる高耐陰 性の植物は採食耐性が低く,一旦排除されると再生困難であることが考えられ る.このような森林では,林床の光環境を改善して低耐陰性植物を導入すること により,林床植生の回復を端緒に生態系全体の機能が回復に向かう可能性があ る.一方で,こうした処理は,植物機能群の転換や林床・土壌環境の改変といっ た強い負荷を生じさせ,むしろ負の機能循環を駆動する恐れもある.林冠木伐採 の是非を明らかにすることは,旧薪炭林の積極的な伐採が検討されている世相に あって,重要な意味をもつ課題である.
演者らは,房総半島南部の旧薪炭林において,林冠木伐採と防鹿柵設置の二種類 の施工を組み合わせて行い,それらの処理が林床植生や土壌に及ぼす影響を検討 している.長期実験であるが,本講演では施工後半年時点での結果を報告する. この時点では,伐採と柵を両方施工した区画のみで植生の有意な回復が見られ た.一方,土壌環境と土壌動物相に対しては,伐採による強い負の効果と柵によ る正の効果が検出された.これらの結果から,短期的には (1) 伐採処理は下層 植生被覆を回復させるが,植生回復による正の間接効果を上回る負の影響を土壌 環境や土壌動物相に及ぼす,(2) 防鹿柵を設置すると表層土壌の移動が抑制さ れ,これにより短期間で土壌動物相が回復する,と考えている.
現段階では長期的な結果は不明ですが,北村さん・宮下さんのお許しが頂けれ ば,彼らが近傍の柵設置後10年のサイトでやった研究の結果と比較することで, ある程度の予測などをお話ししたいと思っています.

第1回 Jenica Allen (University of Connecticut, Department of Ecology and Evolutionary Biology)

日時:4月11日(土)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室 (地図
演題:「Biological Invasions, Trophic Interactions, and Phenological Shifts with Global Change」
概要:
Global change is a multi-faceted phenomenon that includes biological introductions, climate change, and land use change. The implications of global change on ecological communities and ultimately ecosystems are the result of a combination of factors, thus synthetic approaches that incorporate many driving aspects are useful for understanding current patterns and forecasting future scenarios.
First, I will introduce a suite of spatially-explicit hierarchical Bayesian (HB) models used to predict invasive plant species distributions in terms of species occurrence, abundance, and invasive species richness. These models allow us to incorporate data at regional (climate), landscape (land use/land cover), and local (microsite) scales with native and invasive range distribution data. The goal is to forecast the potential invasion extent and abundance of particular species as well as identify invasion “hotspots”, or geographic areas where many invasive plants are likely to occur given current observed patterns. I will demonstrate the utility of the models for a collection of invasive species in the northeastern United States that are native to Japan. Forecasts can be made based on current climate and a variety of climate change model predictions. I will also briefly discuss several on-going empirical studies investigating mechanisms of invasive species success, including assessments of insect herbivores, environmentally-dependent performance, molecular genetic techniques for detecting invasive species invasion history and potential for response to natural selection, and modeling land use change as a function of socio-economic factors in a HB framework.
The second segment of the seminar will focus on new research that aims to address species phenological responses to climate change. As climate changes globally and locally, species across trophic levels may shift the timing of important biological events, such as first leaf production for plants or first arrival of migratory birds in the spring. Datasets recording such events over large spatial and temporal scales are quite rare, but quality data for a suite of common Japanese species are available from 1953 to the present. Preliminary analysis using spatially-explicit HB models suggests that species responses to increases in temperature are quite variable, with stronger responses in more northerly areas and in lower trophic level taxa. However, the species included in the database are widely distributed, common organisms in Japan that may not directly interact. My next goal for the project is to use HB models in conjunction with field observations to create an interaction network that explains the indirect connections between the database species. By describing the indirect connections between the database species, we will enhance our ability to forecast beyond individual species responses under future climate change models.

2008年度

世話人:川崎菜実(東大・生物多様性)

第5回 Mark Lenz (Leibniz Institute of MarineSciences at the University of Kiel (IFM-GEOMAR))

日時:3月9日(月)18時〜
場所:東京大学 農学6号館 1階セミナー室
演題:「Modification of trophic interactions byenvironmental stress: the influence of abiotic and biotic stressors on theattractiveness of macroalgae for marine herbivores」
概要:
Herbivoryby meso- and macrograzers can structure coastal benthic communities bycontrolling the abundance and distribution of marine macroalgae. However, manyseaweeds developed strategies to reduce grazing. Chemical and morphologicalresistances against herbivory can either be displayed permanently or they canbe induced by grazing. In recent years, evidence accrued that inducibledefences are widespread among all groups of marine macroalgae. However, littleis known about factors influencing defense regulation. In two multi-siteresearch projects we firstly investigated whether defense up-regulation iscompromised by energy limitation, i.e. low-light stress. In this context, ithas been suggested that plant defenses are costly in terms of metabolic energy,but empirical evidence for this concept is scarce. Secondly, we tested whether the speed of defense up-regulation is flexible: do seaweeds respond faster ifthey are attacked harder? The latter question is directly related to theecological relevance of inducible defense strategies: to be efficient they needto be adjustable to different threat scenarios. To answers these questions werealized mesocosm experiments with red and brown seaweed species as well asmarine meso- and macrograzers at different locations worldwide; coveringclimatic regions from the subarctis to the tropics. We found little evidencefor an influence of short-term light limitation on algal attractiveness fortheir antagonists, while we found support for the assumption that macroalgaecan adjust their defensive response to different grazing regimes. Our results suggestthat seaweeds, independent of their origin, are well adapted to short-termfluctuations in light availability and that they can maintain defensive traitsin the face of this stressor. Additionally, they can react flexibly to afluctuating biotic stressor such as herbivory. Our findings provide newinsights into the stress ecology of marine macroalgae and indicate that theseorganisms developed complex strategies to cope with a changing environment.

第4回 村上正志(千葉大学・理学研究科)

日時:1月30日(金)18時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「多種系の群集生態学を考えてみたい」
概要:
群集生態学は、群集構造の創出・維持機構を明らかにすることを目的とし ている。ここで、群集の構造は、それを構成する種数としての多様性、種ごとの 個体数も考慮した種−個体数関係、群集のサイズ、あるいは、生息地の面積を考 慮した、種数−面積関係、さらには、栄養段階感の関係を考慮した、食物網の構 造など、さまざまな、方法、スケールで表現できる。
 このような、群集構造の成立機構について、我が国では、2、3種間の相互作 用の下での共存条件を考え、それを拡張することで全体を理解するという試みが 盛んに行われてきたが、群集全体−多種−の構造がどのように形成されるかについ ての研究は手薄だったといえる。一方で、近年世界的には、Hubbellの提唱した 中立統一理論を端緒として、このような、群集全体の多様性を、統一的に捉え説 明しようとする試みが、非常に盛んになっている。
 このゼミでは、わたしが、このような多種系の群集構造に興味を持った経緯を たどる中で、今後、どのような取り組みが必要か、皆さんと一緒に考えてみたい と考えています。

第3回 熊谷直喜(千葉大学 )

日時:9月19日(金)17時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「海は一様ではなかった!確率性に翻弄される浅海のメタ個体群」
概要:
かつて、海洋生物は海水の流動に伴って頻繁に移動分散するため "海洋生物の個 体群はどこまでもつながっている" と考えられてきた。しかし近年、海洋生物の 移動距離・頻度には大きな変異があり、また浮遊期のない種群や着底後の個体に よる移動の影響さえも無視できないことがわかってきた。それらの移動は個体群 維持に影響すると予測されるが、その実証的研究は極めて乏しい。本研究はイソ バナ Melithaea flabellifera(八放サンゴ類)に特異的に生息するヨコエビの 一種Incisocalliope symbioticus(浮遊期を欠く甲殻類)を用いて、海洋メタ個 体群の維持における移動の影響を検証した。まず、野外調査・実験によりメタ個 体群維持を示唆するパッチ間の密度時空間変異および連結度と季節による移入率 の変化を確認した。さらに、開放実験個体群の追跡から季節別・齢別の生存率と 繁殖率、移入率を求め、これを組み込んだレズリー行列モデルによる解析を行っ た。解析の結果、負の効果としてパッチ間の移入の制限により人口学的確率性に 影響されうること、また正の効果は移入個体の内訳によって大きく異なることが わかった。本研究は、移入頻度そのものの大小だけでなく、移入個体の組成が海 洋生物個体群の維持に大きく影響し得ることを示した。

第2回 深見理(Department of Zoology, University of Hawaii)

日時:8月21日(木)17時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「群集集合の歴史と生態系の機能:木材腐朽菌を用いた実験」
概要:
物質循環をはじめとした生態系の機能は、その変動の予測がむずかしい。最近は、生態系にすむ生物の種数や種構成の影響が注目されているが、種数や種構成自体も予測するのがむずかしく、その理由として、「群集集合の歴史」(種の移入の順序)の影響が認識されつつある。群集の歴史が種数や種構成にとって重要なら、その影響を介して生態系の機能にも変化が生じるのだろうか。今回のゼミでは、この問いに答えるべく、ニュージーランドのナンキョクブナ林にみられる木材腐朽菌を対象としておこなった実験の結果を紹介する。この実験では、群集集合の歴史と栄養塩の濃度を操作し、菌類群集への影響だけでなく、炭素放出や分解など、生態系の機能への影響も調べた。その結果、群集集合の歴史によって、菌類種間に起きる相互作用が大きく異なり、生態系の機能にも変化が起きることが分かった。さらに、栄養塩濃度によって群集集合の歴史の影響が変わることも分かった。これらの結果は、生態系の機能を理解するには、群集集合の歴史を知る必要があることを示している。実験結果を詳しく紹介するとともに、群集集合と生態系の機能の関係について広く議論したい。

第1回 河田雅圭 (東北大学大学院生命科学研究科・生物多様性進化分野)

日時:6月14日(土) 18:00〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「個体の移動分散が生物多様性に与える影響」

2007年度

世話人:亘悠哉(東大・生物多様性)

第5回 吉村仁(静岡大学)

日時: 2007年11月16日18時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「いつも競争していない!?:プランクトンのパラドックスの新しい解釈」
概要:
湖沼や海洋のプランクトンは種数が極端に多いことが知られている。この多様性の高さは、 生態学における競争原理からは簡単には説明できない。さらに、ケモスタット実験では、 競争原理が働き、2種の共存も難しい。従来、環境モザイクや外的要因などいろいろな解釈が試みられてきたが、どれもうまく説明できたとはいえない。私たちの新しい試みとして、プランクトンの空間的広がりを考慮した解釈を提案する。プランクトンにとって、小さな池でも空間的広がりは莫大であり、各プランクトンは、 距離的に物理的に隔離されており、競争的遭遇・接近は基本的に起こらない。これを格子モデルにより再現する。有限時間では、競争の起こる確率はゼロに近く、殆どのプランクトンは存続する。ところが、成長率が高くて生息密度が極端に上がると競争が発現して、種数が減少する。これが、ケモスタットの状況である。つまり、「ほとんど競争することはない」のでプランクトン群集は高い多様性を維持できる。

第4回 群集ゼミスペシャル

日時:2007年9月29日(土)14:30〜30日(日)12:00
場所:千葉大学海洋バイオシステム研究センター銚子実験場

第1部(9月29日)「群集生態学と生態系生態学をつなぐ:環境変動と生物多様性と生態系機能の関連性に迫る」

近年、生物多様性と生態系機能の関係を明らかにする研究が着目されている。従来の研究は、均一な環境で多様性を操作した場合の生態系機能の変化を取り扱ってきたが、実際には、生物多様性と生態系機能の関係は、環境に応じて変わることが考えられる。さらに、生物多様性の変化が生態系機能の変化を通じて環境の変化を引き起こすというフィードバックの存在も指摘されている。フィードバックの作用機構および影響の大きさを解明することは、生物多様性の喪失や地球環境問題などの応用的分野を含む生態学の進展のために重要であることは言うまでもなかろう。
今回の群集ゼミスペシャルでは、「生物群集こそが生態系の駆動系」であるというテーマのもとに、上記の課題に関連する本を執筆中の著者(の一部)を中心に、この課題に取り組むには、どのようなアプローチが有効であるかを議論することを目的とする。個体群生態学・群集生態学・生態系生態学の統合的アプローチや、空間時間スケールの問題、生物多様性や地球環境問題に関心のある専門家や大学院生、学部生の積極的な参加を期待しています。

1:話題提供「構造と機能をつなぐ:生物多様性と生態系機能のダイナミクス」
 三木 健(京都大学生態学研究センター)

概要:生物多様性が生態系機能に与える影響を解明しようという研究が1990年代から初頭から盛んになり現在に至っている.この生物多様性と生態系機能の関係についての研究は,種の多様性に注目するところから始まった後,生物群集の下にあるさまざまな階層の生物多様性に視野を広げて研究が進んでいる.本章では,生態系機能は,生態系を構成するあらゆる要素によって決まっているというより根本的な視点から出発し,ミクロな動的過程から生物多様性と生態系機能というマクロなパターンを理解するための基本的な考え方を提供したい.まず,生物の進化,生物多様性,生態系機能の間の関係について考えることから始める.そして,環境条件−群集構造−生態系機能の相互依存性を整理した後,これら三者の間に対応関係が生まれるメカニズムについて議論する.環境−群集構造−生態系機能の対応関係を生み出すダイナミクスをひも解くと,「生物群集の環境適応」と「環境−群集−機能のフィードバック」という二つの主要な過程に分解できる.この二つの過程について理論的な視点から一般的特性を解説する.以上により,生物多様性と生態系機能が決まっていく動態(ダイナミクス)について理解を深め,地球における生命の誕生以来,進化してきた生態系の維持メカニズムを深く理解し,人間社会にとって不可欠なこの仕組みを,破綻させることなく維持・保全していくための解決策を探っていきたい.

2:総合討論「環境変動・生物群集動態・生態系動態のフィードバックの解明にどのように取り組むか」

 司会:仲岡雅裕(千葉大学理学研究科)

第2部(9月30日)
3:研究紹介

 亘悠哉(東京大学)
 山道真人(総研大)

第3回 瀧本岳(東邦大学)

日時: 2007年7月20日18時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「食物連鎖の長さは何によって決まっているのか?」
概要:
食物連鎖の長さは生態系の重要な特質の一つである。例えば、食物連鎖長は生物群集の安定性や物質循環の速さを大きく左右すると考えられている。1927年にイギリスのチャールズ・エルトンが初めて食物連鎖の重要性を指摘して以来、生態学者たちは食物連鎖長の決定機構の解明に取り組んできた。しかし、決定的な答えは未だ見つかっていない。従来の仮説からは、一次生産性の高い生態系で食物連鎖は長く、撹乱の強い生態系では短くなると予測されてきた。けれども、これらを支持する野外例は多くない。その一方で、最近の研究からは、生態系サイズ(湖の体積や島の面積)が重要な決定要因として浮かび上がってきている。そこで私は、一次生産性、撹乱、生態系サイズの三つの要因の効果を、数理モデルを用いて、相対的に評価した。その結果、生態系サイズの顕著な効果を見いだした。この結果は、一次生産性や撹乱による食物連鎖長への制限効果が、大きな生態系では緩和されることによって生じていることが分かった。さらに、このモデル予測を野外検証しました。カリブ海に浮かぶバハマ諸島の陸上生態系を対象に、植物から植物食者、中間捕食者(クモなど)を経て高次捕食者(トカゲ)にいたる食物連鎖の長さを、安定同位体分析によって評価した。その結果、生態系サイズの増加に伴い食物連鎖が長くなっていること、また、撹乱の影響が小さいことが分かった。これらの結果は、生態系サイズが食物連鎖長の重要な決定要因であることを示す強力な証拠といえる。

第2回 鏡味麻衣子(東邦大学)

日時:2007年6月8日18時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:「ミジンコはツボカビがお好き?」:病原菌を考慮にいれた湖沼食物網動態の解析
概要:
「ツボカビ」と聞くと、カエルに寄生し、カエルの激減・絶滅を招いている「悪者」という印象を持つかもしれない。しかし、食物網(物質循環)の観点からすると、ツボカビは必ずしも悪者ではなく、生態的役割を持っている。ツボカビはカエルだけでなく、プランクトンなどにも寄生し、自然界に広く分布する。
私は、植物プランクトン(珪藻)に寄生するツボカビを対象に、その寄主・寄生関係と食物網の中での役割に関する研究を行ってきた。ツボカビは生活史の一部を遊走子として水中を泳いで過ごすが、その遊走子をミジンコが餌にしていること、さらにはツボカビの中に豊富に含まれるコレステロールがミジンコの成長を促進していることをこれまでに明らかにし、食物網におけるツボカビの生態的位置づけを確定した。今回のセミナーではツボカビ全般について簡単に説明し、寄主・寄生関係および食物網動態に関するこれまでの研究成果と、今後の研究計画について紹介したい。
参照ホームページ http://marine1.bio.sci.toho-u.ac.jp/members/kagami/index.html

第1回 大舘智氏(北海道大学低温科学研究所)

日時: 2007年5月8日18時〜
場所:東京大学農学6号館1階セミナー室
演題:トガリネズミ類の群集、個体群生態学と生態系生態学へのプロローグ
概要:
今回は私が今まで行ってきたトガリネズミ類(無盲腸類、トガリネズミ科)の群集生態学的な研究例紹介し、さらにその研究を生態系生態学へ発展させた研究プロジェクト(昨年から動き出した)についての紹介を行う。講演は3つのパート(とこれからの展望)に分かれており、各々の成果は、直接的には繋がっていないので、これまでの私の研究歴の紹介とこれからの研究の方向性という風に捉えていただけると幸いです(実は巧妙にそれぞれの研究が裏で繋がっているのですが)。
 始めに主に北海道産のトガリネズミ類を中心に、群集構造を知る為に不可欠な、現分布、餌資源利用、空間利用、攻撃性などについての種間関係の研究を紹介する。次に、そのトガリネズミ群集がどのようにして成立してきたかという、歴史生物地理学的問題について、系統地理学、化石の情報、古生態学(古環境学)、種間関係の情報を統合して論じる。
 次の話題は個体群の遺伝構造である。この研究は当初、北海道内での歴史生物地理学的問題を調べるためにマイクロサテライト多型を用いた研究を行ったものであるが、結果は思惑とは異なり、地域による遺伝分化や遺伝構造は認められずに、個体群や群集の歴史を論ずることはできなかった。ところが副次的に非常に興味深いことがわかった。それは連続分布する種と生息地が有る程度分断化されていると思われる種の双方で、殆どの地域個体群で最近のボトルネックを経験していることが示唆されたことである。これによりトガリネズミの個体群は頻繁な絶滅と再生を繰り返しているメタ個体群理論による説明が出来ると思われた。また、メタ個体群と関連して世界最小の哺乳類の一つで分布域非常に広いがどこにおいても希な種である、チビトガリネズミの進行中の研究例を挙げる。これはメタ個体群の旗手I .Hanskiらとの共同で行っているが、稀少であるが故にサンプルが集まらずに手を焼いているが、ハビタット、遺伝構造について面白いことがわかりつつあるので紹介する。  最後の話題はこれからの私達の取り組みを紹介する。テーマは群集生態学に回帰したが、今までの研究より扱うレベルを生態系まで視野を広げた。一つは、土壌生態系でのトガリネズミの捕食の土壌動物相と落葉分解系へのトップダウン効果の研究で、その途中報告を行う。また土壌生態系と陸上生態系の系同士のインタラクションで重要な役割を有する落葉の供給と分解を調べるためにシカの被食による土壌生物相に対する影響の計画についてのべる。

2006年度

世話人:亘悠哉(東大・生物多様性)

第5回 西川潮(国立環境研究所環境リスク研究センター)

日時:2007年3月9日18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室
演題:淡水域のキーストーン種:食物網構造および生態系プロセスにおけるザリガニ類の生態的役割
概要:
生態系の構成メンバーの中には、消失したり侵入したりすることによって生態系の機能や構造が大きく変化する影響力の高い種と、その存在・不在によって食物網や生態系プロセスが変化しない影響力の低い種が存在する。他の生物によって生態的役割が置き換えられないユニークな機能的役割を持つ種は、生態系の保護管理を考える上で重要であり、このような種は従来の定義を拡張してキーストーン種と呼ばれる。本講演では、これまで演者がニュージーランドと日本で行ってきた研究を通して、ザリガニ類がその機能的役割の多様さから環境に関わらずキーストーン種となることを紹介する。
 講演前半では、ニュージーランドの在来ザリガニが、捕食、生態攪拌、ならびに落葉の破砕分解を通じて複数の下位の栄養レベルに影響を与え、結果、カスケード連鎖を壊したり、部分的カスケード効果をもたらしたりすることを示す。これらの影響は、局所スケールの食物網構造の維持形成や生態系プロセスにおいて重要である。後半では、日本に移入された外来ザリガニが新しい生息域に侵入したり、在来ザリガニを駆逐したりすることに伴って生態系の構造や機能がどのように変化するかについて、研究の途中経過を報告する。

第4回 深見理(ハワイ大学動物学科)

日時:2007年2月13日12時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室
演題:島の生態系の改変:外来種が海鳥を捕食して起きる森と土壌の栄養カスケード
概要:
生態系の上位にいる捕食者は、食物連鎖をとおしてさまざまな栄養段階に属する生き物に影響をあたえることがある。とくに外来種が侵入先の生態系で上位をしめる場合、こういった「栄養カスケード」がしばしば起こることが知られている。しかし、その仕組み、とくに地上生物と土壌生物のあいだの相互関係が栄養カスケードによってどう変化するかについては、まだよく分かっていない。今回の講演では、この仕組みをさぐる試みとしてニュージーランドの島でおこなわれた研究を紹介する。これらの島では森林内で穴を掘って営巣する海鳥が多数生息し、その活動により大量の栄養塩が海から島へ運ばれている。しかしいったん外来種であるネズミが島に導入されると、ヒナや卵を捕食し、海鳥が激減することがわかっている。そこで、ネズミの侵入を受けた島と受けていない島、計18の島を比較したところ、ネズミがはいって海からの栄養塩供給が少なくなると、地上の植物現存量や栄養状態が変化し、土壌中の食物網に栄養カスケードがおき、全体として生態系機能に影響がでていることがわかった。つまり、外来種が海と陸のつながりを絶つことが引き金となって、島の生態系全体での栄養カスケードがおきているのだ。現場からの写真を交えて紹介するこの実例をもとに、外来種が生態系に与える影響について広く議論したい。

第3回 吉田丈人(東京大学・総合文化研究科・広域システム)

日時:2007年1月26日18時〜
場所:東京大学農学部7号館B棟231号室
演題:「生態の時間」と「進化の時間」の収斂:生態過程としての迅速な進化
概要:
近年、様々な生物において生態学的に重要な形質が素早く進化する例が報告されている。形質の迅速な進化は、それらが関わる生物間相互作用に影響を与える可能性がある。このような迅速な進化が至るところで見られるなら、生態的現象の時間スケールと進化的現象のそれとは大きく異なるという、これまでの概念を見直さなければならない。これまで、進化速度の「速さ」は形質の進化速度そのものを用いて判断されてきた。しかし、生態学にとっては、進化速度の大小よりも、むしろ進化が生態学的現象に与える影響の大きさがより重要になるだろう。そこで、生態学的現象に少なからずの影響を与える遺伝的変化を「迅速な進化」と呼ぶことを提案する。
 進化的現象と生態的現象が緊密に関係している例として、ワムシと藻類からなる捕食者- 被食者系を使った私達の研究を紹介する。様々な手法を用いた一連の研究により、室内実験で観測されたこの系の個体群動態(生態的現象)を説明するには、捕食-被食の関係や齢構造といった生態的メカニズムだけでなく、餌藻類の形質(捕食防衛と競争能力)における迅速な進化が重要なメカニズムとして働くことがわかった。進化的現象が生態的現象に影響を与えることを示した研究例を他にも紹介して、生態過程としての迅速な進化を議論したい。

第2回 深見理(ハワイ大学動物学科)

日時:2006年12月25日18時〜
場所:東大農学部7号館B棟231号室
演題:群集の移入履歴と適応放散:ちょっと実験してみました
概要:
生物群集にみられる多様性はどう決まっているのか。究極的には、群集外からの「移入」と群集内での「多様化」(進化)というふたつのプロセスが多様性の源であるのは確かだ。しかし、このふたつがそれぞれ別個に多様性に貢献していると考えるとうまく多様性を説明できないことも多い。最近行ったバクテリアを使った実験から、移入の履歴(順序やタイミング)によって多様化の度合いが大きく変わることが分かった。その実験結果を紹介する。移入と多様化は密接に関わりあいながら多様性を決めると考える必要があるのではないか。その辺について議論したい。

第1回 熊谷直喜(千葉大・自然科学)

日時: 2006年12月1日18時〜
場所:東大農学部6号館一階セミナー室
演題:海洋における宿主特異性の決定機構:陸上との相違
概要:
陸上において、小型植食者は一般に宿主植物を生息場所としてだけでなく餌資源としても利用し、特定の宿主のみに特化する種が多く知られている。その特異性は、餌資源および外敵からの隠れ家としての宿主の価値の双方によって決まると考えられる。一方、海洋においては、一般に微小付着藻類や宿主に蓄積した有機物等をも餌資源として利用可能である。すなわち、海洋の宿主特異性は餌資源としての価値にかかわらず外敵からの隠れ家としての価値によって決定するかもしれない。本研究はこの仮説の検証を目的として、八放サンゴ亜綱イソバナのみから採集されるヨコエビ Incisocalliope symbioticus の宿主特異性を確認し、その決定機構を解明した。
 イソバナを含む 17 種の宿主生物についての野外調査、および5 種の八放サンゴ類を用いた選択実験により、本種の宿主特異性が証明された。これらの八放サンゴおよびデトリタスを外部餌資源として提供した摂食実験においては、本種はデトリタスを最も多く摂取した。さらに、魚類捕食からの隠れ家としての価値を上記の八放サンゴを含む 9 宿主種間で比較した。その結果、イソバナは最も強力に魚類の捕食を忌避した。最後に、イソバナの捕食忌避効果を、生物的および物理的、化学的要因に分けて検証したところ、化学的要因のみが作用していることがわかった。以上の結果から、海洋における宿主特異性は陸上と異なり、餌資源としての価値には影響されることなく、捕食からの化学的隠れ家としての価値によって決定しうることが明らかとなった。

2004年度

世話人:亘悠哉(東大・生物多様性)

第5回 三橋弘宗(兵庫県立人と自然の博物館)

日時:1月11日(火) 18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室
演題:森林と水域の連続性が生物群集の形成に及ぼす影響
概要:
森林と隣接する河川、ため池や水田に生息する生物は、様々な形で森林の影響を受けている。資源の供給や繁殖場の提供など、森林と水域が連続することで、生態系プロセスや種の移出入動態が改変される。今回のゼミでは、河川生態系における森林供給を起因とする生食連鎖と腐食連鎖のマッチングに関する話題、森林と水田のエコトーンに生息する両生類の生息場所予測に関する話題、カタクリの分布形成に及ぼす河畔林の役割についての話題を紹介し、森林−水域エコトーンの果たす多様な機能、生態系保全のための実践的アプローチについて論議したい。

第4回 時田恵一郎(大阪大学サイバーメディアセンター大規模計算科学研究部門)

日時:12月17日(金)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室
演題:多様化を促進する群集形成の数理モデルと種個体数関係の理論
概要:
30年以上前にRobert Mayが提示した「生態学におけるパラドックス」に象徴されるような、複雑系一般の形成メカニズムとその安定性およびそれらを特徴づける量に興味があります。それらを知るための一つのモデルケースとして群集モデルに対する数理的研究を行っています。多様性を促進する群集アセンブリモデル(1)とそこで進化的に形成されたある特徴的をもつ種間相互作用から、いわゆる種個体数関係を理論的に導出した最近の結果(2)をご紹介します。
参考
(1) http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~tokita/Papers/TY2003.html
(2) http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~tokita/Papers/KT2004.html

第3回 鎌内宏光(創価大学工学部環境共生工学科)

日時:11月26日(金)18時〜
場所:東京大学農学部 6号館1階セミナー室
演題:森林河川における落葉の動態と分解者群集
概要:
森林河川では樹冠が鬱閉するので一次生産は低く、そのため生態系に供給される有機物のほとんどは落葉である。温帯域では落葉の供給が季節的に限られていると同時に、出水など流下によって河川内の落葉現存量は減少する。従って河川生態系の生物群集及び物質循環は季節的に強い資源制限を受けると考えられる。そこで本研究では北海道の一森林河川において河川性分解者群集と有機物動態との関連性および分解者群集の物質循環への寄与を明らかにすることを目的とした。
河川内の大型有機物は堆積量と落葉の流入がよく対応しており、また堆積量と無脊椎動物群集の生物量の対応も高かったことから、この群集が資源制限(ボトムアップ制御)を受けていることが示唆された。無脊椎動物群集は落葉食性の分類群が優占しており、これらによって排出される糞の微細有機物への寄与は年間で約30%と推定されたが、堆積物食性の分類群においてはこれらの糞の餌としての価値がより高いとされていることから、その重要性はさらに高いと考えられた。細粒有機物に付着するバクテリアの動態には明瞭な季節性が見られず、生物量は付着している細粒有機物のサイズ及び炭素・窒素比と相関関係にあったが、細粒有機物のサイズと炭素・窒素比も相関関係にあったので両者の影響を分離できなかった。河川内の有機物には2種類の堆積形態が認められ無脊椎動物群集の組成や有機物あたりの生物量が異なることなどから、落葉分解などの機能が堆積形態によって異なることが示唆された。森林河川では流入エネルギーにおける落葉への強い依存の結果として、生物群集が機能的相互作用などを通じて資源制限を受けており、物質循環にも影響が及んでいることが示唆された。

第2回 村瀬香(東京大学農学生命科学研究科生物多様性科学研究室)

日時:5月7日(金)18時〜
場所:東京大学農学部7号館B棟2階231,232号室
演題:オオバギーアリ共生系における種特異性の維持機構に関する生態学的研究
概要:
世界中の熱帯域では、アリ類に被食防衛をゆだねている植物が数多く報告されている(Beattie 1985; Buckley 1982; Davidson & McKey 1993; Huxley & Cutler 1991;Janzen 1966; McKey et al. 1993)。その中には、特定のアリ類に体の一部を巣場所として提供して、そのアリ類と共生している植物が知られている(Davidson & McKey1993; Huxley & Cutler 1991; Janzen 1966; McKey et al. 1993)。このような植物をアリ植物と呼ぶ。アリ植物と共生する以外には生息できないほどアリ植物に特殊化したアリ類を、植物アリと呼ぶ。両者は、お互いなしでは生存できないほど相手に依存している絶対的な相利共生関係にあることが知られている(Buckley 1982;Beattie 1985; Huxley & Cutler 1991; McKey et al. 1993)。
東南アジア熱帯域を中心に分布するオオバギ属(Macaranga: Euphorbiaceae, トウダイグサ科)は、こうした絶対共生型のアリ植物種を数多く含んでいる(Whitmore1969, 1975; Fiala et al. 1989, 1994)。オオバギ属のアリ植物は共生アリに巣場所を提供するだけでなく、餌(栄養体)も提供している(Fiala et al. 1989)。一方共生アリは、栄養体を主な餌資源として利用し、植物を植食者から防衛し、植物上のみで生活している(Fiala & Maschwitz 1991, 1992a, b; Fiala & Linsenmair1995)。オオバギ属のアリ植物種の多くは、それぞれの種に特殊化したアリ種のみと絶対的な相利共生系を結んでいることが、オオバギ成木の調査から分かっている(Fiala et al. 1999, 図1)。そこで、本研究では、オオバギ属のアリ植物とその共生アリを材料に、種特異性を維持する機構を実証的に明らかにすることを目的とした。
オオバギ-アリ共生系における、種特異的な関係の維持機構を明らかにするには、まず始めに共生アリの新女王の定着過程を調査する必要がある。なぜなら、新女王がオオバギ成木から分散してオオバギ実生に定着することで、オオバギとアリの共生関係が開始されるからである。そこで、共生アリの新女王のオオバギ実生への定着時期を明らかにするとともに、新女王によるオオバギ種に対する選好性について調査した。その結果、実生に定着していた新女王の約3割は、成木ではみられないアリ種であった。このことから、新女王定着後にも、種特異的な関係を維持する機構が働いていると考えられる。そこで、新女王定着後に働く種特異性の維持機構を明らかにするため、同所的に生息する絶対アリ共生型のオオバギ3種の実生に、成木ではみられないアリ種の新女王を人工的に定着させる“新女王入れ替え実験”を苗床で行い、その後の過程を追った。さらには、アリによる栄養体に対する選好性があるのかを明らかにするために、成木に共生しているアリ種のワーカーに、各種オオバギの栄養体を与えて、ワーカーの行動を調査した。
一方,種特異的な関係が崩壊する要因を明らかにするために、原生林から二次林まで、広範囲に生息している一種のアリ植物種に注目した。原生林と、人為的撹乱などで生じた二次林とでは、光条件などの環境条件が全く異なる。環境条件が異なっていても、種特異性は維持されているのかを明らかにするために、アリとの関係・アリによる防衛(以下、アリ防衛と呼ぶ)の強度・アリ防衛以外の防衛(以下、非アリ防衛と呼ぶ)の強度といったアリ植物の特性(以下、アリ植物性と呼ぶ)に、森林間で変異があるかを調査した。
本発表の最後には,オオバギ-アリ共生系における、種特異性を維持する機構について総合的に討論する。

第1回 中村洋平(東京大学農学生命科学研究科農学国際専攻国際水産開発学研究室)

日時:4月30日(金)18時〜
場所:東大農学部弥生キャンパス6号館1階セミナー室
演題:魚類の生息場所としてのサンゴ礁海草藻場の機能
概要:
カリブ海においてサンゴ礁の海草藻場は,さまざまなサンゴ域魚類の稚魚の成育場として利用されていることが知られている.一方で,西部太平洋のサンゴ礁海草藻場が,魚類の生息場所としてどのように利用されているのかについては,ほとんど明らかにされていないのが現状である.そこで本研究では,沖縄県西表島と石垣島において,海草藻場とそれに隣接するサンゴ域などの魚類を潜水調査によって調べることで,どのような魚類がどのように海草藻場を利用しているのかを明らかにした.さらに,魚類の生息場所としての海草藻場の機能(餌場,捕食者からの避難場所,浮遊仔魚の着底場所)を解明するために,野外実験を行った.
 その結果,西表島と石垣島の海草藻場には,海草食魚などの海草藻場のみに出現する専住魚と,海草藻場を餌場や稚魚の成育場として利用する一部のサンゴ域魚類が出現することが明らかとなった.海草藻場に出現する魚類には主にヨコエビなどの小型甲殻類を摂餌する種が多く,また,これらの小型甲殻類はサンゴ域や砂地と比べて多いことも明らかとなった.捕食者からの避難場所としての海草藻場の機能を糸つなぎ実験を用いて調べたところ,その機能は定住性魚種よりも遊泳性魚種の稚魚の方が高かった.また,サンゴ礁の海草藻場はサンゴ域魚類の浮遊仔魚の着底場所として機能していることが示唆されているが,人工魚礁などを用いた実験では,これらの浮遊仔魚は海草藻場まで来遊してくるものの,海草藻場には着底しないことが明らかとなった.
 本研究によって,西表島と石垣島の海草藻場を餌場や稚魚の成育場として利用しているサンゴ域魚類がいることがあきらかとなったものの,サンゴ域魚類全体に占めるこれらの割合は約15%と少なかった.カリブ海の海草藻場を利用するサンゴ域魚類は全体の約50%であるという近年の報告と比較すると,魚類の生息場所としてのサンゴ礁海草藻場の機能はカリブ海と西部太平洋で異なる可能性が示唆された.

2003年度

世話人:市野川桃子(東大広域システム)・高田まゆら(東大農生物多様性)

第6回 小池 文人(横浜国大・環境情報)

日時:2月 17 日(火)18時〜
場所:東大農学部6号館1階セミナー室
演題:「侵入リスク評価における群集生態学者の任務」
概要:
外来生物や遺伝子組換生物の野外の自然への侵入予測には,
(a) 種子散布などによる分布拡大の予測(いつどこまで広がるか)
(b) 種子などの供給が十分あると仮定して,与えられた環境や種間相互作用のもとで,どの程度の優占度になるのかを予測する(全く侵入できない場合も含めて)
のふたつがある.このなかで(b)は群集生態学者が責任を持って解決しなければならない問題である.
 このセミナーでは,上記の問題に対応する以下の3つの話題提供を行う.
1.都市近郊のパッチ状の生育地における個体群の分布拡大過程
2.立地環境による侵入種の優占度予測マップ
3.種特性をもとにした群集の種組成と優占度の予測

第5回 深見 理(Landcare Research,New Zealand)

日時:12月 22 日(月)18時〜
場所:東大農学部7号館104/5室
演題:歴史の産物としての種多様性 "Species diversity and assembly history in ecological communities"
概要:
このセミナーでは、生態系形成の歴史が種多様性にどう影響するか、また、歴史の重要性は他の要因によって左右されるかを、生態学的視点から考える。他の要因として、利用可能なエネルギー量、生態系の大きさ、種が移入する頻度、移入する種の数に注目する。これらは種多様性を決める主要因として考えられてきたが、生態系形成の歴史との関係はよく分かっていない。微生物を使った実験とコンピュータシミュレーションの結果を紹介し、種多様性を歴史の産物として扱う有効性を提示する。

第4回 論文紹介

日時:10月 3 日(金)18時〜
場所:東大農学部6号館1階セミナー室
論文1. Biodiversity and ecosystem function: the consumer connection J. Emmett Duffy OIKOS Volume 99 Issue 2 Page 201 - (担当、河内)
論文2. 「The Functional Consequences of Biodiversity」5章「 Autotrophic-heterotrphic interactions and their impacts on biodiversity and ecosystem functioning.」(担当、市野川)

第3回 堀正和 (東大農,生物多様性)

日時:9月 12 日(金)18時〜
場所:東大農学部7号館B棟231号
演題: Food web structure and dynamics in the rocky intertidal habitat: effects of avian foraging and allochthonous input
概要:
現在の地球温暖化の進行は、気温、水温や降水量といった生物に直接影響する物理環境要因の大規模かつ急激な変動を伴うため、生態系への広汎な影響が懸念されている。このような背景から、現在では大スケールで生じる物理環境の時間変化が引き起こす生物群集の時間変異性を解明することが、地球温暖化が生態系に及ぼす影響の予測に重要であると考えられている。

自然界では生物群集や有機物といった生態系の構成要素は単一のハビタット内のみに限定して存在することは稀で、複数のハビタット間で栄養塩、デトライタス等の物質や生物の移出入が起こっている。それにも拘らず、過去の生態学の理論や実践研究の多くは単一のハビタット内で生じる過程のみが注目された。近年、ハビタット間での物質の移出入が生物群集の形成維持機構に大きく貢献する場合があることが解明され、過去の理論研究の反証と新しい理論の構築が行われつつある。その一方で、生物のハビタット間での移動が生物群集に及ぼす影響については不明な点が多い。しかし、ハビタット間を移動する生物は群集に対してしばしば強い影響を持つ高次の消費者が多いため、生物群集の形成維持機構に少なからず影響することが考えられる。

海洋と陸域の境界に位置する岩礁潮間帯では、頻繁に潮下帯で生産された海藻や底生生物が潮間帯に打ち上げられる。また、陸域由来の鳥類が最上位捕食者として、潮間帯餌生物個体群にしばしば強い影響を及ぼしている。これらのことは、岩礁潮間帯生物群集が隣接したハビタットの影響を少なからず受けていることを推察させる。そこで本研究では、岩礁潮間帯において、隣接するハビタットとの相互作用が食物網構造に及ぼす影響の解明、及び潮間帯と他のハビタット間を移動して採餌する鳥類が食物網動態に及ぼす影響の解明、またこれらの影響に起因する食物網構造・動態の時間変異性と大スケールでの沿岸海況変化との関係を解明することを目的として研究を行った。

 最初に、岩礁潮間帯の食物網構造全体の空間的広がりと時間変異を明らかにするために野外調査を行った。その結果、鳥類は潮間帯の餌生物を大量に捕食する一方で、潮下帯から供給されたウニ類を主要な餌にしていた。さらに、鳥類は潮間帯餌生物を時空間的に食い分けしていた。この鳥間で生じた餌資源分割によって食物網構造に時空間的なコンパートメントが生じ、それぞれの鳥を最上位捕食者とした部分食物網に分かれることが明らかになった。これらの定性的データは、隣接ハビタットからの資源供給及びハビタット間を移動する生物が岩礁潮間帯生物群集の形成維持機構に少なからず影響することを示唆している。

上記の野外調査の結果から、潮下帯から潮間帯へのウニ供給は、捕食者の鳥を共有する潮間帯餌生物とアパレントコンペティション(apparent competition)の関係を作り出していることが推察できる。この場合、潮下帯からのウニ供給は潮間帯生物に負の間接効果を及ぼすと考えられる。そこで次に、潮間帯へのウニ類供給量の経年変動と、それに伴う鳥類(カラス及びカモメ)の潮間帯生物群集への捕食圧の時間変動を明らかにするために野外調査を行った。さらに、潮間帯へのウニ供給量の経年変動が生じるプロセスを解明するために、潮間帯へのウニ供給量の経年変異、潮下帯ウニ個体群サイズ、及び沿岸海況の経年変動の三者関係を検討した。その結果、ウニ供給量の変化に対するカラスとカモメの摂餌動態は異なっていた。カラスはウニ供給量の減少に伴い潮間帯餌生物への捕食圧が強くなったが、一方でカモメの場合は潮間帯生物への捕食圧は弱くなった。また、ウニ供給量の経年変動は沿岸海況に依存して増減する潮下帯ウニ個体群サイズの経年変動に反映されていた。従って、隣接ハビタットからの資源供給は沿岸海況に依存して経年変動し、鳥類を介して潮間帯食物網動態に影響を及ぼすことが示唆された。

最後に、実際に鳥類の摂食圧が食物網動態に及ぼす影響とそのプロセスを明らかにするために、鳥類の潮間帯餌生物への摂餌量を操作した野外実験を沿岸海況の異なる年間で行った。実験の対象とした部分食物網では、カモメは海藻の競争的優占種を摂食し、カラスはその海藻優占種のキャノピーに棲む小型甲殻類とキャノピー下に隠蔽する貝類を捕食している。野外操作実験の結果、高水温がでた年には、カモメが海藻優占種のキャノピーを有意に減少させ、キャノピーの減少によって小型甲殻類の生息密度が減少した。その結果、カラスは貝類を選択的に捕食してその密度を有意に減少させ、貝類の餌である付着珪藻類を増加させた。一方で低水温の年には、カモメの摂食が海藻優占種のキャノピーを有意に増加させた。その結果、カラスは小型甲殻類を選択的に捕食してその密度を有意に減少させ、貝類を捕食しないことで付着珪藻類を有意に減少させた。このカモメによる海藻優占種に与える影響の違いは、沿岸海況に依存した海藻優占種の加入量と成長速度の年変異が原因であると推定された。従って、鳥類は沿岸海況に依存した生産者のフェノロジー変化を介して潮間帯食物網構造と動態を変化させることが示唆された。

以上の野外調査と野外操作実験を組み合わせた本研究の結果は、従来のパッチダイナミクス単位の岩礁潮間帯生物群集研究とは異なり、隣接したハビタットの影響なしでは潮間帯生物群集の構造と動態の変化は説明できないことを示唆している。また、沿岸海況の変化は隣接ハビタットからの異地性資源、現地性資源(一次生産)の双方に作用して、総資源量と資源の相対比率(異地性 /現地性)を経年変化させ、それらの変化が食物網構造と動態の時間変異性を生じさせた。さらにこの沿岸海況の変化は、大スケールでの海洋環境変動を反映している可能性が他の研究より報告されている。これらの事実は、岩礁潮間帯生物群集が大規模環境変動によって容易に変化しうることを示唆しているかもしれない。

第2回
 Mark Luckenbach (Virginia Institute of Marine Science)
 伊藤 洋 (東京大学 広域システム 嶋田研)

日時:6月 4 日(水)17時〜
場所:東大農学部1 号館地下、生圏システム会議室

Mark Luckenbach (Virginia Institute of Marine Science)

演題: 「Oyster Reef Habitat Restoration in the Chesapeake Bay, USA: Investigating the Effects of Habitat Complexity and Spatial Scale」
概要:
The historical role of the Eastern oyster, Crassostrea virginica, as a keystone species in many estuaries along the Atlantic coast of the U.S. is now widely appreciated. There is evidence that oysters can (or could at historical abundances) control phytoplankton abundance and alter estuarine food webs through benthic-pelagic coupling. Indeed, there is an increasing recognition that top-down control of phytoplankton abundance provided by oysters should be an important part of strategies to improve water quality in many eutrophic estuaries. Moreover, oysters are quintessential ecosystem engineers, constructing biogenic habitats that provide refugia, nesting sites and foraging grounds for a variety of resident and transient species. Numerous studies have now revealed greater biodiversity associated with oyster reefs than with adjacent sedimentary habitats. In many estuaries from the Mid-Atlantic to the Gulf of Mexico coasts, oyster reefs are the primary source of hard substrate and as such may support unique assemblages of organisms. Further, there is growing evidence that oyster reefs contribute to enhanced production, not merely a concentration, of finfish and decapods.
Oyster populations and the reef habitats they create have been degraded along the U. S. Atlantic and Gulf of Mexico coasts by a large number of factors, including over fishing, disease, sedimentation, pollution, hydrographic alterations and boat wakes. Restoration of these habitats poses an even greater number of challenges, as the factors above interact differently in varying habitats. One of the most difficult challenges has been reconciling fishery exploitation of this species with ecological restoration goals.
Oyster habitat restoration invariably begins with the placement of substrate for oyster settlement onto the shallow sea floor. Because oyster shell and other alternative materials are in short supply and/or costly, it is important that we optimize our choice and placement of this material to maximize restoration success. Over the past few years we have conducted experiments varying the substrate material and the spatial pattern and scale of its deployment. These studies reveal the importance of the composition of the material provided as settlement substrate for oysters and the architecture (size, shape and spatial configuration) of that material to restoration success. Spatial heterogeneity on scales ranging from mm's to km's have been shown to affect the settlement, growth and survival of oysters. Early post-settlement mortality, which is largely driven by predation, is strongly affected by the quantity of interstitial space and the surface complexity of the substrate. The results suggest that the proper choice of substrate characteristics may enhance early post-settlement survival and increase the likelihood of restoration success.

伊藤 洋 (東京大学 広域システム 嶋田研)

演題: 「種分化により成長する食物網進化モデル」
概要:
[Introduction] 「すべての生物はたった1つの祖先に由来する」という見解は広く普及しており,このことは,「最初の生命から始まる種分化の繰り返しによって,今日の複雑で多様な生態系が成長してきた」ということを意味する. しかし,この現象を一連の進化動態として説明する理論は未だに存在せず,各々の部分的な現象(種分化,共進化など)がそれぞれ異なる理論によって説明されている. 本研究は,2つの形質に基づく単純な捕食被食相互作用とその形質の変異のみにより, 1種類の祖先種からの再帰的な進化的分岐によって,複数の栄養段階を持つ複雑な食物網が自律的に成長することを示した.

[Model] 全ての生物は無機的環境や他生物体を資源として利用(補食)するだけでなく,自らもまた資源として他の生物体に利用される(補食される)存在である.本研究は1次元のニッチ軸を仮定し,生物の属性を,その軸上の「どこに資源として存在するか」:被食(または資源)形質 [r],「どこを利用するか」:捕食(または利用)形質 [u] のみにより定義した.どの生物がどの生物を食べるか(捕食被食相互作用)は,これら2つの形質の関係によって決まる.この捕食被食相互作用によって,各表現型(u,r)の生物量は(c*捕食量-被食量-自然死亡率)の分だけ変化する.ここでcは生態効率(=0.1)である.突然変異の効果はわずかに異なる表現型が小量生産されること,すなわち,形質空間における生物量の拡散により表現した.

[Result] このモデルを数値計算すると,形質空間(u,r)上における複数の表現型のまとまりの,成長,衰退,移動,分裂として動態が進行する.これらのまとまりは「栄養種」(食物網の中で同一の結節点にまとめられる種群)に対応する.これらの栄養種間または種内の相互作用により,一つの栄養種の導入から複雑な食物網が自律成長することが示された.栄養種の分化のタイプは,捕食者としての分化/被食者としての分化/捕食者と被食者の共進化的分化,の3つに分類され,特に共進化的分化は食物網の成長を一気に加速する.この全体の進化動態は,2つの形質を軸とする形質平面に時間軸を加えた空間における,3次元の進化系統樹として可視化することができる.

成長した食物網は,その後,大量絶滅と復帰を繰り返すことが多いが,状況によっては食う-食われるの相互作用の強さや突然変異率の大きさに依存して,分化と絶滅の頻度がつりあうことで多種が動的に維持される場合や,分化も絶滅もしない静的な食物網が安定または振動する場合など,多様な動態が生じる.さらに,栄養種数は総生物量が中程度の所で最大となるという実際の生態系における一般的な傾向も示された.

[Discussion] このモデルは,生物集団におけるエネルギー流・個体数動態・進化動態を微分方程式(反応拡散方程式)として統一的に記述するものであり,生物の動態における様々な研究の統合に貢献すると期待される.

第1回 中嶋美冬 (東大海洋研)

日時:5月 19 日(月)18時〜
場所:東大農学部弥生キャンパス6号館1階セミナー室
演題:「魚類の左右二型の存続と変動について」
概要:
 タンガニイカ湖のシクリッド群集において、顎が右に開き体が左に曲がる「左利き」と、その逆の「右利き」という遺伝形質の二型が知られている。遺伝形式は1遺伝子座2対立遺伝子に支配される左利き優性のメンデル遺伝と考えられている。生物個体の非対称性については以下の3つが知られている。@ほとんどのヒトの心臓が左にあるように、決まった側が集団の絶対多数でより発達する定向性非対称(Directional Asymmetry)。A本来左右対称と考えられている形態に見られるわずかな対称性のゆらぎ(Fluctuating Asymmetry)。Bシオマネキの鋏のように集団の中に左利きと右利きが共存する分断性非対称(Antisymmetry)。上記の魚の左右性は、Bの分断性非対称の一例と考えられる。魚食魚では自分と反対の利きの餌個体を主に捕食することが明らかにされており、本研究ではこれを交差捕食(Cross Predation)、捕食者が自分と同じ利きの被食者を食べることを並行捕食(Parallel Predation)と呼ぶ。このような捕食の非対称性が魚類の左利きと右利きの共存を維持する要因と考えられる。その理由は以下のような頻度依存淘汰により説明できる。餌種に左利きが多かったとき、それを捕食する種では右利きが有利となり多数派になるため、やがて餌種では左利きが減少して右利きが増え、捕食者ではかつて少数派であった左利きが有利となって後に多数派となるように、被食者と捕食者において多数派の利きの入れ替わりが繰り返されると予想される。
本研究では、雑食者である種xとその餌種yとzで構成される3種捕食系において、交差捕食によって各種で多型が維持される条件を、 Lotka-Volterra方程式を応用した個体数変動のモデルと遺伝子頻度モデルを用いて検討した。なお、タンガニイカ湖の食物網では、xは鱗食魚、yは魚食魚、zは藻類食魚に相当する。
 まず、3種が共存するパラメタ領域や、被食者zとxかyのどちらかの捕食者で構成される2種4者系(z右, z左, x右またはy右, x左またはy 左)が存在する領域をLotka-Volterra型のモデルから求めた。後者の領域においては、4者が常に共存し、周期解に落ち着くことがリアプノフ型関数の解析によりわかった。
次に、3種が共存する際に、各種での利き個体の頻度がどのような挙動を示すのかを調べるために、時間遅れのない連続時間の1遺伝子座2対立遺伝子の遺伝子頻度モデルを用いた。これは、右利き個体の遺伝子型が劣性対立遺伝子のホモであることを利用して、劣性対立遺伝子の頻度 pの動態を、周辺適応度とその種の平均適応度の淘汰差に遺伝子頻度を乗じて表したものである。6者(3種×2利き)が共存する唯一の平衡点は、種内の右利き個体頻度が1/2となる(px,py,pz) = (√(1/2),√(1/2),√(1/2))であり、ヤコビ行列の固有方程式からこの平衡点は不安定渦状点であることがわかった。計算機実験の結果、平衡点の周囲にリミットサイクルが出現した。このとき、種内での利き個体頻度は周期的な振動を見せた。これは野外観察で得られているデータの挙動と一致している。個体数変動を考慮したLotka-Volterra型のモデルや2種4者系においても同様の結果が得られた。
さらに、自然界での交差捕食と並行捕食の頻度を比較するため、 1995-1999年に採取されたタンガニイカ湖シクリッドの魚食魚における、各個体の利きとその胃内の魚の利きを調査した結果(5年分、魚食魚5種で計59個体)を用いて、共通オッズ比のMantel-Haenszel推定量を求めた。その結果、オッズ比は0.149(95%信頼区間0.039-0.561)であった。つまり、並行捕食が行われた頻度は交差捕食に比べ0.15であり、1より有意に低かった。
このように、本研究では捕食の非対称性が魚類の左右二型の存続に寄与し、種内の利き個体頻度の周期的振動をもたらしていることを数理モデルにより示し、さらに野外の個体調査結果から捕食の非対称性を定量的に評価した。

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